2008-01-24 00:54
「学ぶ意欲の心理学」を読む
先日、市川伸一先生の著書「学ぶ意欲の心理学」を読了しました。私は教育心理学については門外漢なのですが、いくつもの興味深い内容が読みやすい文章で記載されていて、大変参考になりました。ここに自分用の読後メモを残しておきます。
第1章「動機づけの心理学を展望する」では「動機づけ」研究の過去と現在について、いくつかの学問分野の視点を交えて展望しています。
これまでの研究では、経営心理学の視点から経済的動機、親和動機、達成動機が提案(p.17)され、それらに方向性を持たせた階層性理論(p.21)が説明されています。また、基礎心理学の立場から提案された外発/内発的動機づけ(p.24)が紹介されています。この辺りの記述で特に興味深かったのが、自分の行動と賞罰が随伴しているという随伴性の認知(p.37)や、帰属理論(p.38)に基づいて行われた再帰属訓練(p.39)です。これらのトピックは、学習支援システムをデザインする際にも参考になりそうです。
また、「動機づけ」を内発と外発と言う二元論ではなく、外発から内発的動機づけへと連続的に遷移するものと捉えた(p.41)上で、注入、統一化などの状態分類を導入し、内発的動機づけへの状態遷移を促進させるためには教育者と学習者の関係性が重要である、というデシによる考えが述べられています。このアイデアは理解しやすいのですが、どのようなデータに基づいて述べているのかに関心を持ちました。45ページで触れられているヒドゥン・カリキュラムは、まさに私が現在開発しているSNSベースの学習支援システムをデザインする際に考えていたことでもあります。
ここまでの動機づけ研究に関する概略を述べた後で、著者自らが提案している学習動機の二要因モデルが紹介されます。このモデルでは、学習動機を学習内容の重要性と学習の功利性と言う2つの要因によるマトリックスとして整理しています。この分類に基づいた心理テストの結果から、内容関与的動機と内容分離的動機と言う2郡にマトリックス要素を大別し、それらの郡による学習手法の違いを述べるくだり(p.58)は非常に刺激的でした。また、内容分離的動機を高めていっても、必ずしも学習のしかたの質もあがるわけではないという指摘(p.60)は重要ですね。
第2、3章では、それぞれ和田秀樹氏、苅谷剛彦氏との動機づけに関する討論が収められています。これらの討論を通して、著者の「動機づけ」や「動機づけ」研究に関する立場を明確にしています。特に印象に残った言葉は以下の通りです。
- 私は、学校は何を考えるべきかという時に、一言で言ってしまえば、もっと実用志向を重視すると言うことだと思います(p.98)
- 俗流・教育心理学の学習モデルは、あくまでも個人のモデルであり、せいぜいが教師-生徒関係といったミクロな社会関係までにしか目を向けない。個人をとりまくより大きな社会構造の変化や社会関係によって、人々がいかなる制約を受けているかといった側面への関心は希薄とならざるを得ない(p.144)
- 子どもが社会化されていくという中で、大人が社会での価値というものを子どもに働きかけて内在化させたいと思っているわけですね。その時にどういうやり方をとるか。大人が統制的に振る舞うか、あるいは子どもが自律的にやろうとすることを促すか、ここで大きな違いが出てくるだろうというわけです(p.154)
第4章「自分のやる気を引き出す環境づくりと意識づくり」では、学習動機の二要因モデルに基づき、動機づけを促進するための処方箋がいくつか提案されています。この「学ぶ意欲の心理学」実践編とも言える章でも、いくつか興味を持ったところをメモしておきます。
- 自分の意思で自律的にやっているという状態になっていくことは、学習を継続する上では望ましいこと(自己強化に関して、p.205)
- 特に生涯学習ということを考えた時には、むしろ多重に支えられた動機ということを考えた方がいいのではないか(p.211)
- 「この問題をやってみたことによって、自分はいったい何をここから学んだのか」を考えて、似たような場面で生かせそうな教訓として引き出してメモしておく。これは教訓を帰納すると言う意味で教訓帰納と呼んでいます(p.213)
- 実現したいことがあって、そのために必要感を持って基礎を学ぶ。それを私は基礎に降りていく学びと呼んでいます(p.220)
- RLA(researcher-like activity)と呼んでいる実践的な教育活動の例をあげながら、刺激し合い、啓発し合う場をつくることが、学ぶ意欲をかきたてる上でいかに大切かという話をしたいと思います(p.230)
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